室町時代の能の大成者である世阿弥は、著書「風姿花伝」の中で、
年齢に応じた稽古の仕方を示し、
年齢に応じた対処の仕方や歳を経ていく自らについて、
後世に伝えている。
■少年前期(12~13歳)
その姿も声だけで幽玄を体現しもっとも美しい年代である。
それは、その時だけの「時分の花」で、「まことの花」ではない。
その時代が良いからといって、生涯がそこで決まるわけではない。
少年期の華やかな美しさに惑わされることなく、
しっかり稽古することが肝心である。
■青年期(24~25歳)
声も体も一人前になり、芸も若々しく上手に見える。
人々から誉めそやされ、時代の名人を相手にしても、
新人の珍しさから勝つことさえある。
それも「時分の花」で「まことの花」ではない。
■壮年後期(44~45歳)
どんなに頂点を極めたものでも衰えが見え始め、
観客からも「花」があるように見えがたい。
この時期は難しいことをせず、自分の得意とすることをすべき。
この時期に一番大事なのは、後継者の育成である。
■「老年期(50歳以上)
花も失せた老人は、何もしないほかに方法はない。
それが老人の心得。
それでも本当に優れた役者はそこに花が残る。
「時分の花」とは、若い人が持つ、若さゆえの鮮やかで魅力的な花である。
「まことの花」とは、日々の鍛錬と精進によって初めて咲く花である。
世阿弥は、
「時分の花」と「まことの花」を知ることが大切であり、
どの時代でも、「時分の花」を「まことの花」と思って惑わされることが、
真実の花を遠ざける、
と説いている。
だからこそ、どの時代であっても、
「初心」を忘れず稽古を怠らないことが大切なのである。
これは、能の世界だけではなく、全ての人の人生に通じる教えである。
今の自分の「時分の花」を知り、
「まことの花」を咲かせるために、いつも夢を持ち続け、
どのように生きていくのか、しっかり考えてみたい。