交渉のとき、主導権を得るためによく使われるのが、
「アンカリング」というスキルである。
「アンカー」とは、その場を離れないようにする船のいかりのことである。
最初に示された特定の数値や情報が、
話の基準点(アンカー)として印象に残る。
そして、どうしてもそこから離れられない心理傾向のことである。
すなわち、最初にこちらから基本条件を提示することで、
交渉の一部始終がその条件をベースとして進んでいくというものである。
たとえば、
「特別価格8,000円」という値札をつけるよりも、
「通常価格20,000円が特別価格8,000円」
という値札をつけたほうが、購買に結びつきやすくなる。
どちらの値札を付けても商品の性能や消費者にとっての便益は変わらない。
「通常価格20,000円」という情報をアンカー(基準)として提示するだけで、
「8,000円ならお買い得」と感じる消費者が増えるのである。
さらに、
「限定10個!」
「本日限り!」
といった情報もアンカーとして併せて与えると、更に効果的な販売促進となる。
たとえば、顧客に提出する資料を、
「1週間後に提出します」と約束して、3日後に出す。
「こんなに早く提出してくれた。頑張っているな」
という印象を得ることができる。
逆に、
「明日提出します」と約束して、3日後に出すと、
「約束よりもおそいじゃないか。手を抜いているのか」
という印象になってしまう。
提出したスピードや提出に必要な労力はまったく同じ。
アンカリング効果によって評価に雲泥の差が現われてしまう。
アンカリング効果を交渉にうまく活用することで、
同じことをしていても違った評価を得ることができる。
こうした心理術をうまく使えば、
自分がイメージする落としどころに向けて、
さらに効果的に話を進められるはずである。